前日

あれから数日が過ぎた。いや、もしかしたら数年だったかもしれない。ここでは時間の感覚が大きく狂うので仕方ない。

そんなある日、村長が言った。

「明日あたり、銀河鉄道が来ると思います。乗りたい人は準備しておくといいですよ」

村長というのは、私に最初に声をかけてくれた人で、みんなから村長と呼ばれていた。時間を可能な限り正確に把握しているのも、この中では彼だけだ。

「えっ、明日!?」

私は、いつもの日課をこなそうという最中だったが、驚いて声をあげた。

「ああ、そうですよ。おそらく、明日」

「それで、村長は、どうするんです?」

「ああ、私は、今回もパスになりますよ」

「…そう、ですか」

村長の気持ちも少しわかる。もし列車に乗って変なところに連れて行かれるくらいなら、ここでのんびり暮らすのも悪くない、そう思うからだ。

すると、村長が私に言った。

「北村くんは、おそらく、乗っていかれるんでしょう。寂しくなりますよ」

「はい、私は、乗る予定です」

今回乗るのは、この中では自分だけだった。

このあとも何人出るのか、わからない。もしかしたら、自分で最後かもしれない。そんなことを思った。

正直、私だって怖い。怖くて怖くてたまらない。だが、ここに来て最初に言った言葉を私はまだ覚えていた。

「私、乗ります」

ここに来て銀河鉄道の話を聞いたとき、私は、そう言った。

最初に直感したことは正しいことが多い。そんな人生の経験則に従い、私は、乗ることに決めたのだ。

ただ、後々になってみると、乗るのは自分だけではなかった。

しかもそれは、ここの住人でもなければ、知っている人物でもなかった。

それは、見ず知らずの女の子だった。

まさかあんなことが起ころうとは、誰も予想していなかった。宇宙の果てから少女が飛んできて、自分の後ろに並ぶなんてことを、一体、誰が予想できただろう。

ここの住人の誰もが、あの村長でさえ、とんでもなく予想外の出来事だったはずだ。